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最高裁判所第三小法廷 昭和42年(オ)491号 判決 1968年11月19日

上告人

真壁廉平

代理人

大野好哉

被上告人

三井高重

代理人

渕上義一

主文

原判決中、上告人敗訴の部分を破棄し、右破棄部分につき、被上告人の控訴を棄却する。

前項の部分に関する当審および控訴審の訴訟費用は、被上告人の負担とする。

理由

上告代理人大野好哉の上告理由第一点について。

記録によれば、上告人はみずから原審において、原判決別紙物件目録(二)の土地(以下「本件土地」という。)については、昭和三六年一二月一四日、被上告人を債権者とし、訴外機械商事株式会社(以下「訴外会社」という。)を債務者とする「債務者は本件土地について譲渡、質権、抵当権および賃借権の設定その他一切の処分をしてはならない」旨のいわゆる処分禁止の仮処分決定がなされ、同日その旨の登記がなされていること、上告人が本件土地を買い受けてその所有権移転登記を経由したのは昭和三七年一二月一一日であることを主張したことが明らかであり、原審は、被上告人において、右仮処分の執行に関する上告人主張の事実を明らかに争わず、また、本件土地の買受けおよびその登記に関する主張事実を争わないものとして右事実を確定したことがその判文に照らして明らかである。所論は、右仮処分の執行に関する事実の主張は、上告人の右仮処分の執行の不許を求める請求を特定するためになしたものにすぎないというが、数個の請求が併合審理される場合においては、当事者から陳述された事実は、これと関連をもつ請求についてそれぞれ訴訟資料となるものと解するのが相当である。そして、弁論主義のもとにおいては、権利の発生、その障害、消滅の法律効果の判断に直接必要な主要事実は、当事者の弁論にあらわれないかぎり裁判所が判決の基礎とすることは許されないけれども、当事者の弁論にあらわれた場合には、その事実について主張責任を負う当事者から陳述されたものであるかどうかは問うところでなく、また、主張された事実についての法律効果の判断は裁判所の職権事項に属するから、主張された主要事実を確定した以上、裁判所は、当事者の法律効果に関する主張がなくてもその法律効果を判断して請求の当否を決することができるものと解すべきである。したがつて、原審が上告人の本件土地に対する所有権確認請求および右土地の明渡請求につき前記仮処分の存在を斟酌してその当否を判断したからといつて、原判決に所論の違法はない。論旨は採用するに足りない。

同第二点および第三点について。

処分禁止の仮処分の執行前にその目的不動産の所有権を仮処分債務者から譲り受けた者であつても、右仮処分の執行当時、その旨の登記を経由していなかつたときは、右仮処分の効力によつて仮処分債権者との関係において対抗力を具備させる余地が失われる結果、その後登記を経由しても、民法上その所有権の取得をもつて仮処分債権者に対抗することをえないのを本則とするが、右譲受人が登記を経由しなくても仮処分債権者に対しその所有権の取得を対抗しるうる地位にあつた場合には、仮処分の執行があつたからといつて、その地位に影響を及ぼすものではないと解するのが相当である(昭和三二年(オ)第一四九号、同三五年一〇月二八日第二小法廷判決、裁判集民事四五号二三頁参照)。

ところで、原審の確定したところによれば、本件土地は、昭和三四年五月二五日、その旧所有者であつた被上告人から訴外会社に対し有効に譲渡されたところ、その後、昭和三六年三月二五日、上告人は訴外会社からこれを買い受けたが、昭和三六年一二月一四日、被上告人は、本件土地について、訴外会社を債務者として前示内容の処分禁止の仮処分決定を得、同日その執行としての嘱託登記がなされ、その後、上告人において本件土地の所有権移転登記を経由したというのである。そして、民法一七七条にいわゆる第三者というためには、係争土地に対してなんらかの正当な権利を有することを要し、該土地をすでに他に有効に譲渡した前所有者のごとく、該土地につきなんらの正当な権利を有しない者は、登記の欠缺を主張するについて正当の利益を有するものとはいえないものと解するのを相当とするところ、前記事実関係によれば、被上告人は上告人に対する関係では、本件土地についての前所有者にすぎないものであるから、民法一七七条にいわゆる第三者に該当するものではなく、したがつて、訴外会社から売買によつて本件土地の所有権を取得した上告人は、その旨の登記を経由するまでもなく被上告人に対してその権利を主張しうる地位にあつたものというべきであり、その後、本件土地について訴外会社を債務者とする前示処分禁止の仮処分が執行されたからといつて、該仮処分が上告人の右の地位に影響を及ぼすものではないこと前記のとおりである。

されば、本件土地が被上告人のした前記仮処分決定の執行前に被上告人から訴外会社を経て上告人に有効に譲渡された事実を確定しながら、本件土地についての所有権取得登記が右仮処分決定の執行後になされた故をもつて、上告人はその所有権を被上告人に対抗しえないものと解し、上告人の請求を棄却した原判決には法令の解釈を誤つた違法があり、右の違法は判決の結論に影響を及ぼすべきものというべきであるから、論旨は理由があり、原判決は、上告人敗訴の部分については破棄を免れない。そして、原審の確定した事実関係のもとにおいては、上告人の請求中、被上告人との間において本件土地について所有権の確認を求めるとともに、右所有権を有することを理由に前示仮処分執行の排除を求める部分ならびに右所有権に基づき被上告人に対し本件土地の仮換地である原判決別紙物件目録(六)の土地の明渡を求める部分は、いずれも理由があるというべきであつて、これと同旨に出た一審判決は正当であるから、被上告人の控訴は右部分についても理由がなく、これを棄却すべきものとする。

よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(横田正俊 田中二郎 下村三郎 松本正雄 飯村義美)

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